ヴィクトリア・ブレイスウェイト『魚は痛みを感じるか』

会社で借りてしばらく放置していたら、Slackbotに滞納を指摘されたので、一気に点検読書をした。

動物の権利運動の高まりの中で、無視されてきた魚類。脊椎動物の始祖に近いのに、意外にも科学的研究においてもそれほど注目されてこなかったらしい。

それでも、魚類がどうなのか、という問いを発する人たちも増えてきた様子で、英国では動物実験の対象として魚類を選ぶ場合も、他の動物を対象とする場合と同じような手続きが必要になるらしい。著者らの場合は、マスを実験に使った。

さて、魚が犬や猫のような動物と同等の権利を有するかもしれないということについては、生命倫理の問題であるため、これを科学的研究で扱えるように3つの問いに分解した。まずは、「魚は痛みを知覚できるか」、「知覚できるとしたらそれが苦痛となりうるか」、そして、「痛みを知覚・認識できるとしたらそれは哺乳類などの他の動物と同様のものなのか」の3つ。本になるぐらいなので結果は明らかだけど。

著者は生物学者であり活動家ではないので、これらの結果から得られた事実である「魚は痛みを感じる」ということのみを伝えている一方、これにより浮かび上がる生命倫理の諸問題にも触れていたのが面白かった。 ベンサム功利主義原則からシンガーの動物の権利運動などの最近の話題に触れて、さらに養殖や釣りについて、魚が痛みを感じることができるという新事実がもたらす倫理的課題に触れている。例えば、よりよい屠殺方法は?スポーツフィッシングにおけるキャッチアンドリリースのような行動指針は、魚の苦痛を減らす上でどれだけ役立つか、などなど。